剣術に置いて「無我」で戦えば相手に次手をサトラれない、という逸話として使われている。これは『竜馬が行く』(司馬遼太郎)や『北斗の人』(池波正太郎)に見られる。
あるとき樵が森の中で木を切っていると、不意に異獣が現れ、ぞっとして、(怖いな)と思った。すると異獣はゲラゲラと笑い「今お前は怖いなと思ったな」と言う。樵は真っ青になって、(ぐずぐずしていると捕って喰われる)と震えていると、「今お前は、ぐずぐずしていると捕って喰われると思ったな」と言う。 いよいよこれは危ないと思い、(逃げられるところまで逃げてやろう)と思うと、「今度は、逃げられるところまで逃げてやろうと思ったな」と言う。樵は肩を落とし、(これはどうにもならない。諦めよう)と思うと、またしても「今お前は、これはどうにもならない。諦めようと思ったな」と言い放った。 樵はもうどうすることも出來ず、只仕方なくその木を割っていると、異獣がどんどんと近づいてくる。隙あらば捕って喰おうという算段らしい。 そのとき―― 樵が打ち下ろした斧は、木の大きな節に当たり、不意に砕け散った。木の破片は方々に飛び散り、ひとつが異獣の目を潰したのだ! 異獣は「思うことより思わぬことの方が怖い」と言い言い、山の奥深くへ逃げ去り、樵は命拾いをしたと言う。
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