ある人からの電話。
受付が困った顔をしてやって来た。 「院長!患者様から電話で『高いお金をかけて入れ歯を作ったが、緩くて痛い!入れ歯はこんな物なのか先生の評価を聞きたい。 場合によってはそちらで作り直す事も考えている。」 西村が言った。 「患者様に言って下さい。『他の先生の作った入れ歯を評価して伝える事は出来ない。』と。」
受付がそういったら、次の返事が返って来た。 「じゃあ!患者は誰に聞けばいいのか。 患者が困っているのに、歯医者同士として、見てくれないのか。 あんな立派な本を書いているのに、残念だ!と伝えて下さい。」
西村が言った。 「他の入れ歯の出来を評価する事は出来ないですが、こちらで作って見たい相談ならお出で下さい。」
そのまま電話を切られた様だ。
時々こんな電話がある。
よーく考えて見れば判りそうだ。 「この入れ歯は下手です。」そう言えるかどうか。 そんな事を言ったら大変な事になる。 この入れ歯の本を書いた西村先生の評価は下手だったと言った。 こう言って前の歯科医へ行ったらどうなるか。 大人なら判りそうなものだ。 腹で思っても言える事と言えない事がある。 この方は怒っているのです。 自分の性格や、義歯制作上の本人の抱えている口の悪条件を棚に上げて。 西村を味方につけてその歯科医に復讐したいのです。 そんな危ない事に西村はつきあってはおれません。
さて、同じことでも表現を変えて電話をされたり、前置き無しに来られれば見ます。 その表現方法に『触らぬ神にたたり無し』の態度を相手がとるのです。 この方は自分勝手で社会常識の無い方です。 入れ歯が上手くいかない一番大きな原因は、この方の様な性格の持ち主です。
全く同じような状況で来院される人も多くあります。 そして、西村歯科医院で治療され喜ばれる方も沢山います。 ほとんどがそういう方ばかりです。 では、何故に西村が御断りしたか、普通の人なら判ると思います。
強い前置きに、危険を感じたのです。 相手の人柄を感じたから、遠慮をしたのです。
どこで御金をかけても上手くいかないので、見て欲しいとの依頼で来院される方が西村歯科医院の入れ歯の患者様なのだ。 中には九州中とか、大学病院も行ったとか、困り果てた患者様が多い。
しかし、入口の言葉が重要なのだ。 この電話が懸かっていたときに、丁度診ていた患者様の話し。
西村の仕事は真剣(勝負)『真剣共生』だ。 大阪から入れ歯の検診に上京された。 西村の快心の作品なのだ。 患者様が言われた。 「お陰様で良い思いをさせて頂いています!」 少し緩くなったので、裏打ちをした。 叉、半年一年間つつがなく過ごせると思う。 『またまたしっくりしました。」とお喜びになって帰られた。 昨日この方の話が出たとこだった。 そう言えば、午前中に彼女からの頂戴物が届いていた。 嫁に行った娘が久しぶりに里帰りしてきた様な、満ち足りた気分だった。 新患でお嫁さんと一緒に品の良い御夫人がお出でになった。 75才との事だ。 何度も入れ歯を作るが、この何年間も入れ歯が苦痛で、入れてられないのだ。 その苦痛は計り知れないものがある。 問題は顎の関節が半分位脱臼している事にある。 顔も典型的な老人性顔貌になってしまっている。 約二時間一生懸命に身体・顎・筋肉をほぐし、入れ歯の状態を改善した。 顔は約10才以上若返り、顎のギシギシした音は消え、スムーズに口が開閉するようになった。 お嫁さんもお母さんの変化に目を丸くした。 患者様も涙ぐんで喜ばれた。 西村が言った。 「私の入れ歯は、お口を通して命の息吹を吹き込む物です。」 良く理解された様だ。 いくつかの治療方法を提示した。 他の患者様の方から帰ってくると、患者様が言われた。 「下はインプラントを使った方法で入れ歯は無し。 上は今のままで総入れ歯でお願いします、」 この治療は計画では480万円なのだ。 それを短い間の西村の処置と話しとから、西村に任せようと言うことになった。 金額が張ったからといって儲かるわけではない、それ相応の手間がかかるのだ。 『患者様は最良の選択をされたのだ。 自分の命を愛されたのだ。』 西村が真っ正面から患者様に取り組む姿、そこから西村が彼女へ何が出きるかを表現した事、を患者様は評価されたのだと思う。 患者様も真っ正面から西村に対峙された。 剣道の面は入った、入らなかったですむが、仕事は0円になるか500万円になるかが決定する。 正に『真剣共生』なのだ。 西村は旗揚げの、他人が評価を下す『勝負』はしない。 真剣にお互いが高めあう剣道をする。 仕事も、剣道もそうなのだ。 勝者と敗者が出る争いはしないのだ。 患者様は支払った何十倍もの命の価値を得る。 西村は頂いた金額以上の何倍もの喜びを手に入れる。 そしてそのアフターケアー楽しませて頂く。 これが『真剣共生』なのだ。
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