一年に一度大阪から総義歯の検診に来られる女性がいる。 今回は予備の義歯を作っておきたいとのことだ。
いつも黒い品の良い服を着られている。 高級婦人服の関係の御夫人だ。
患者様 「先生!お陰様で10年間何の不都合もなく過ごせました。 主人が癌で亡くなる前に、『最近奇麗になったなあ!』と言って、 最後まで私が総入れ歯になったことを知りませんでした。 昨年、私は乳癌の手術を受けました。 手術の時は入歯をはずします。 それを子供がみました。 息子達は私が総義歯だったことを、このときに初めて知りました。 それほど自然に身体の一部になっています。 世の中何が起きるか分かりませんから、この際予備に一組の入歯を作っておきたいと思って参上しました。 よろしく御願いします。」
10年前来院された時は、それまで入歯で相当苦労をされていた。 難しい症例であったが、二組目の入歯を入れたとき(西村は通常三組の入歯を作り、出世魚の様に心身ともに命を改善する様に入れ直して行く) もうこれ以上の入歯を作れないと思った。 入歯の安定度、表情の自然さが誠に真に迫り、三組目の入歯がこれを越えることは無いと思った。 それで、三組作る費用を頂いていたが、二組で終了をさせて頂いた。 (一組分は御金を御返しした) 患者様も「これで最高です。」と言われて納得さた。 こんな症例は珍しい!
今回の依頼を引き受けた。 患者様の今の入歯から型と噛合せの位置を決め咬合器につける。 その後、患者様に型を起した入歯の裏打ちをして新品同様にオーバーホールをする。 その後、患者様の前の入歯の歯並びを参考にして、前歯を並べる。 患者様が来院されたのは、二時半。 すべてが終了したのは七時半。 西村は剣道の稽古を予定していたが、当然のこと本業を優先する。 翌日、入歯の裏打ち等の予後見るために今夜は東京にて宿泊。 翌朝、ほんの少しの調整でバッチシ! 来週、新しい入歯を楽しみに来院される。
二十六年ぶりに来院された、重松様の感謝の御手紙を見せると、私も全く同じ想いですと、目にうっすらと涙ぐまれる。 歯科医冥利とはこのことだ。 これが西村の天職だ! 本当に歯科医の仕事は楽しい。 大好きな剣道の稽古よりも、歯科医の仕事が楽しい! 私は幸せ!
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