六段への道

存在しない“敵”と闘う愚かしさ

当時、私は3医院を開業していました。100名以のスタッフを抱え、1日が20分くらいにしか感じられない忙しい日々を送っていたある日、75才までの残り時間を1日20分で計算すると150日にしかならないことを知り、愕然としました。

残り時間のあまりの少なさに驚いた私は、好きな剣道をもう一度やることにしました。
もともと段位に興味はなかったのですが、1年に一度京都で開かれる大会で師匠と稽古する機会があり、その大会は六段以上でなければ参加できません。
年に一回といっても残り30年で30回しか師匠と稽古できないのかと思うと、無性に六段に挑戦したくなったのです。ところが、最初の挑戦は見事に失敗。小柄な相手に思わず打って出たのが原因でした。
「お前の体重は前足にしか乗っていないから、打つしかないし、これでは相手の色が観えない」との師匠からの手紙を読み、“強さとは何か?”について考え込みました。

その頃、“禅”をベースにしたセミナーを紹介され、そこでいろいろなことを発見しました。
例えば「あなたは誰だ?」という問いに何時間も答えているうちに、最後には「私はあなたの子供だ」と一生懸命母親に答えている自分がいました。
母親への愛に気づいたら、あとは簡単です。何よりも母の歯を治療すればよいのです。さっそく実行しました。

医院を三つも抱えて頑張っていたのも、医者の兄に対抗していただけだったのです。

兄が私を認めていないのならともかく、「お前はよくやっている」と認めてくれているのに、自分で勝手に存在しない敵を作って無理をしていたのです。

存在していない敵に勝てるはずがありません。
無理はやめて1医院だけにしようと思ったのです が、なかなか決心がつきませんでした。

そんなとき、歯科医師会の旅行で初めてお会いした先生から「僕は君のことを誤解していた」と言われました。そのとき初めて会った人に誤解されるはずがありません。

その先生は人から聞いた“噂”だけで、私を判断していたのです。そのとき、人から「医院をツブした」と“噂”されることをイヤがっていた自分に気がつき、本当の決心がついたのです。

心が晴れると、剣道も変わりました。そして私は六段になったのです。

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