ある剣道雑誌で読んだ話。
講談社の朝稽古の後、和室で小川忠太郎先生の話が始まった。
熱心に耳を傾ける先生もいるが、ある人が着替えた後に言った言葉「どうせまた例の（手で座禅の組み手をして）話をするんだろう。」と良いながら帰って行ったと書いてあった。
猫に小判というところだろうか。
求める者にしか道は与えられないと言う事だ。
こればっかしで、理屈ばっかりで、頭でっかちで実技が全く伴わない人もいる。
剣道を竹刀当て競技と信じて、そればっかりの人もいる。
剣道を極めんとする人は座禅をする人が多い。
過去の剣豪にもその例が多い。
沢庵和尚は剣豪の良き精神的指導者の例である。
原田先生が有る試合から帰る途中、列車での事である。
ある先生が「原田先生、小川忠太郎先生がおよびです。」と言われ、小川先生の車両まで行った。
すると、小川先生が言った「あれはな！あれでなくてあれでないとダメだ！」回りには全く意味が判らない。
原田先生はその意味がしっかり理解でき、しっかり心にと聞く。
原田先生曰く『小川先生は剣道の心の師匠だ』と。
未だ私が5段6段の頃、ある七段の先生が時々言った。
「西村さんは突如として強くなるね！」
この突如に強くなったのには訳がある。
人生の中で、心の霞がさっぱりと消え、心身ともにスッキリとしたとき、潜在意識のレベルで西村が生まれ変わった時だ（小さな悟りを開いたとき）。
その都度、西村の剣風は変わり、剣道の質が良くなった。
ある例では
京都大会でいつも原田先生にお目にかかっていた。
約10年間この間は剣道はしていなかった。
診療室を3医院、朝の9時から夜の9時まで、正月以外は休み無し。
バイトを含め120人の従業員。
給料を支払う為に死にもの狂い、阿修羅のごとく生きていた。
疲れと不安を取るには深酒をし、アルコール性の肝炎に近い状態にまで落ち入っていた。
そんな時、京都大会の参加条件が六段だと知った。
年に1回は原田先生にお会いが出来る。
良し！六段を取ってやろう。
六段と稽古をして負けた事が無かった。
しかし、10年のブランクがあった。
剣道を再開して3回目の稽古中、誰かがバットで左足を殴ったと思った。
それが強烈な肉離れであった。
約2ヶ月近く松葉杖に頼って歩く状態だった。
松葉杖が取れて8回程稽古をして六段審査に臨んだ。
そこで、一人目は良かったが、二人目の小手を取りに行って見事に抜かれて面を打たれた。
それで、不合格！
その後、師匠から筆で書かれた手紙を頂いた。
審査のとき、となりの会場で審査員をされてたのだ。
手紙要約
『先日の審査を拝見致しました。
貴方の住所が判らなかったので、牛袋君に聞いてこの手紙を送ります。
構えも姿勢も申し分ない、発生も良い。
ただ一つ重心が前足にかかている。
それでは相手の色が見えない（この当時『色』の意味さえしらなかった。）。
ここを頭に置い精進をするように。』
西村的には素晴らしい姿勢、その他申し分無い剣道をしているつもりだった。
皆様そうだが、自分の剣道は良いと信じてやっているのだ。
うぬぼれの強い西村では特にそうだ。
そこで、自分の剣道稽古をビデオに撮った。
【過去ロブから】
五月の昇段審査が近づきました。
それぞれ先生方に心に秘めた思いがあることと思います。
先生にとって剣道とは何なんでしょう？
昇段審査は先生の人生にとって何なんでしょう？
昇段審査の合格の秘訣は意外なところに有るのかもしれません。
西村の剣道、この掲示板の原点をお読みになって何か感ずるものがあれば幸いです。
西村雅興の場合ですが！
さて、人間は一通の手紙で人生が変わり、幸せで豊かな愛に満ちた人生へと変わっていく。
以下、原田源次先生からのお手紙です。
この一通のお手紙から、効を急ぎ見栄をはり、人生の死への急降下の道から救われました。
あのまま行けば、肝臓障害で今はこの世にいなかったでしょう。
人は人と出合って、その人との間に、間が出来、人間になっていく。
西村を動物的個体の『ヒト』から、人間へと成長のチャンスを頂いた究極のお手紙です。
そして、その仲立ちとして『剣道』が存在した。
本当に剣道は有り難い存在です。
冠省
一昨日武道館で久し振りに拝見致しました。
審査が終了してさがしましたが見当たらず。
連絡も出来ないまま帰りました。
今回は今少しのところで残念でしたが、おそらく次回は充分と思います。
是非連絡したいので牛袋君に住所を教えてもらいました。
気のついたところを二三ご連絡致します。
一、気力、姿勢、態度、手の内とも全く非の打ちどころなし立派です。
一、右足に体重がかかりすぎていました。
左足のかかとをもっと下ろして、両足に平均に重心がかかるようにするとよいと思います。
そうすることで左手にぎりが『ツボ』に収まり、相手のわざのおこり、や、打突の色のおこりに 打ち込める筈です。
打とう打とうとが先になり、肩に力が入り、重心が前足にかかると、相手に色が見え、かえって 打突がおくれると思います。
一、攻めは今のままでよろしいと思いますので、相手を打ちこもうと思う気をぐっとこらえて、
相手の色と機（攻める鼻や、打突のおこり、相手の打突のつきたところなど）に合わせた、
一生懸命の打突、小手でも面でも（肩の力をぬいて）であれば最高です。
ご精進を念じ上げます
用件のみで
十一月二十九日
原田源次拝
西村殿
この手紙を読んで自分の剣道の稽古をビデオに撮って見ました。
まさに、先生の御指摘の通りでした。
『がまはおのが姿の鏡に映るのをみて驚き、タラーリ、タラーリと油汗を流す、この油汗を柳の若葉にて三七は二十一日の間、煮詰めましたるが万金膏（陣中膏）がまの油。 』
まさに、己が姿の奥に潜む心の醜さをビデオで見たのです。
自分に今必要なのは竹刀を振ることではない、竹刀を持つ心の修業の方が大切と思ったのです。
そして、一年間竹刀を触ることなく、心の修業の旅に出ました。
一つの区切りがつき（二医院閉鎖）、正月から剣道を再開し５月に六段に受かった。
この過酷な修業はその後10年間続き、インドの果てでそれを終えました。
西村の人生は先生の一通の手紙で180度方向を転換した。
外へ外へと幸せを求める人生から、自分の内面を見つめ、人生の幸せを感じる方向へと転換した。
この手紙を読んで自分の剣道の稽古をビデオに撮って見ました。
まさに、先生の御指摘の通りでした。
『がまはおのが姿の鏡に映るのをみて驚き、タラーリ、タラーリと油汗を流す、この油汗を柳の若葉にて三七は二十一日の間、煮詰めましたるが万金膏（陣中膏）がまの油。 』
まさに、己が姿の奥に潜む心の醜さをビデオで見たのです。
自分に今必要なのは竹刀を振ることではない、竹刀を持つ心の修業の方が大切と思ったのです。
そして、一年間竹刀を触ることなく、心の修業の旅に出ました。
一つの区切りがつき（二医院閉鎖）、正月から剣道を再開し５月に六段に受かった。
この過酷な修業はその後10年間続き、インドの果てでそれを終えました。
西村の人生は先生の一通の手紙で180度方向を転換した。
外へ外へと幸せを求める人生から、自分の内面を見つめ、人生の幸せを感じる方向へと転換した。
過酷な一年間の心の修行の結果、自分が見えて来た。
二つの医院を閉鎖し、1億3千万円相当の価値ある物を捨てました。
捨てれば幸せが手に入ると言う事を身にしみて感じました。
いつ別れるかと思われていた夫婦が、生まれ変わってもまた夫婦になりたいと思う様になり、幸せへの道を歩み始めたのです。
正月になって、剣道をはじめようかなと思った。
久しぶりに道場に行った。
今まで全く歯が立たなかった理事長（七段）との稽古、先生の心が手に取る様に観えるのです。
膠着状態が長く続いたので、一歩体を進め問うてみました。
【さて、いつでも打てる間合いに入りましたどうされますか？】心で聞く。
何と、あの理事長が慌てふためいて打って来るのです。
相手が観えれば捌くのは簡単です。
彼は二度と稽古をすることはなかった。
このとき悟ったのです！
捨てると云う事はこう言う事なのだ！
約4ヶ月間、回数で言うと20回くらいの稽古をした。
六段は見事に受かりました。
同じ会場の多くの人が、君は絶対受かると褒めてくれました。
さて、試験前の前段が有ります。
京都の朝稽古で原田先生と稽古をした後の事です。
お茶を飲みながら先生が言った。
「良い剣道になった！」
西村が言った。
「先生！10年間剣道はやっていませんでした。」
先生が言った。
「竹刀を振るばかりが剣道ではない、お前は立派に剣道の人生を歩んで来た。」
「審査員は何を観ているか。良い攻めをしているな！いつ捨てるかな！
ア！打ってしまった。強いけどもう少し修行をと落とす。
良い攻めをしているな！相手が我慢が出来ずに心が動いた瞬間捨てて打った！
良し！この人は受かるのだ。
剣道は自分勝手に打って入っても、それは一本にならないのだ」
自分を知っている人、見つめて理解してくれる人がいると強く感じました。
その夜ホテルに帰り、二時間位うれし泣きにくれました。
その後の昇段審査でした。
六段審査のとき、攻めて攻めたが相手が中々動かない。
身体は前に倒れそうになるのを必死でこらえていた。
ある瞬間、相手の色が見えた瞬間、身体は面を捉えていた。
それで受かった。
たかが剣道六段の合格にと思われるかもしれませんが、西村には膨大な心の葛藤を超え、先生の手紙の導きが効を奏した結果なのです。
剣道の六段そのものはたいした意味が無い。
六段を受験しょうと思ったところから、合格までの過程で素晴らしい人生を手に入れたのだ。
六段の賞状に価値を見いだすのか？
その過程で自分を見つめ、成長する事に価値を見いだすのか？
そこが問題なのだ。
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小川忠太郎と原田先生 他 - 西村雅興 [2015年12月11日(金)]