頭に浮かぶ稽古風景-3
京都でのサブ道場での稽古だった。 若い学生が二刀でお願いしてきた。 胴を打つと腕で胴を打たれないように防ぐのだ。 刀ならば右手を失っているはずだ。 何度も手で胴を隠す。 その手を思いきり打っていた(すこし酷いことをしたかと思うが痛い目に遭わないと気がつかないからとの教えだ。)
その後その情景を見ていた、若い剣士がお願いしますと目の前に立った。 すらりと立ち、緩やかに構える。殺気は全くない。 打とうとするが面の中でニコニコしている。 打ち気が全く起こらない。 笑顔の赤ちゃんをひっぱたく事は出来ない。 あれ!変わった人だなあ!と思うがどうしょうも無い。 攻め入ろうとすると、スルリと間を切ってしまう。 暫くはお見合い状態だ。 彼はギリット気合いを入れて打ってきた。 その瞬間に西村は切り捨てた。 今思えば終わりが無いので西村に打たせてくれたのだ。 その時は勝ったと思ったが実はそうでは無かったのだ。 その後、縁が深くなり何度も稽古をした。 最後に西村に打たれて終わる。 田伐さん、島野さん,磯ちゃんに10時間剣道の西村の思いを話したことがある。 磯ちゃんが録音しておくんだったと言った。 最後の方で「島野さんだけには打てなかった、最後はいつも一本頂いたが?」と言った。 田伐さんが言った。「打たせてもらったんでしょう!」 そうなのだ!超有名な先生からも「参った!」という一本は取ってきた。 ただ一人、島野君からは一本を取っていない。 さすが!田伐さんは知っていた。 島野君は剣道的には理解不能な人だ。 岩立範士と武道館での彼の稽古を見た。 岩立範士をもってしても彼を攻めあぐね一本も打てなかった。 あるときビデオを見ていると椎名先生と稽古をしていた。 はじめはノラリクラリで剣道にはならない。 業を煮やした椎名先生は三段回に追い詰め面を討ち取っていた。 西村は二段回までしか攻めない{それ以上強引な剣道はしない}。 島野君はそこまでやるならば!と素直に打たれてあげている様子だった。 そんな状況が数回あったのを見た。
【相抜】針ヶ谷夕雲の世界
島野君が師と仰ぐ先生と稽古をした。 武道館での話だ。 面を打とうと心が思うと,右小手にヒヤリと彼の気が走る。 打てば小手を取られるのは必定だ。 彼が面に来ると思うと,西村は面を差し出し始める。 彼が面に来れば確実に胴をとれるは必定だ。 やく30分間、この気の応酬で時間がたった。 太鼓が鳴り八段元立ちの時間になり蹲踞をして終わった。 何と辛抱が良い二人なのだと我ながら呆れた。 まさに針谷夕雲の世界であった。 名人が相まみえれば、打てないことをお互いが知り、刀を納めて立ち去る世界です。 周りの人達は何事かと見ていた。 翌日、足がパンパンに張ってしまった。 ただ立っていたので無い、静的に立っていたので筋は緊張していたのだ。
西村的には満足した稽古だった。 彼は一種の超能力者でヒーラーだった。(仕事は別にお持ちだが人助けでヒーリングをしていらしい。) 飛びっ切り感性が高い人なのだ。
面白い話がある、日本剣道連盟の重鎮のはなしである。 その範士は動こうとする気配で彼に小手をうたれていた。 全て打たれていたが範士はそれに全く気がついていない。 島野君は同じく小手を切っているが範士はそれに全くきがついていない。 西村も同様に小手を切っていた。 稽古の後、俺に何本面を打たすのだと怒っていた。 この範士、本当に打たれたことを判っていないと知った。 彼が言った 「島野は人が良いから打たれてあげている。 西村先生は小手の後、相手を無視していた。 気が強い,品の無い剣道をする範士なのだ。
さて、この人と竹刀を交えた。 相抜 状態だ。 そこで西村は敢えて打ち機になって少し体を出した。 これで面を打てば小手は打たれる。 ぐっと体を入れると小手にヒヤリ感が来た。 その瞬間、右手を竹刀から抜き片手突きをして見事に入った。 彼の竹刀は空を切ったままだ。
【剣道は読みと反射だ!】三橋先生のいうとおりだ。 彼ほどの剣士との稽古はこの二回キリの稽古だった。 彼の剣風は八段向きでわないが、武道館の合同稽古の 八段の元立ちは一人残らず小手を切られていた。 島野君が師と仰ぐだけのことはある。
小説で小手、親指切りの異能の達人のはなしを読んだことがある。 右手の親指を斬られたら真剣勝負はその時点で勝負有りなのだから。
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