椎名先生との稽古
岡田さんが椎名先生の話をした。 全県連合同稽古で椎名先生の稽古(元立ち)を見た。 八段を見ても感心する程の人はすくない。 その頃八段殺しと一時言われたことがある。 元立ち八段が西村に手玉にとられればそう言うことになる。 武道館へは原田先生との稽古のみが目的だった。 さて、椎名先生の稽古ぶりは素晴らしかった。 舞うがごとくに相手を左右に捌き、ストンと面を打つかと思えば、左右の二つ胴を見事に斬っている。 しかも手打ちで無く、腰を浮き腰で左右に動かして斬っている。 当時、乳井先生のこの胴を見て研究し、西村も得意にしていた。 相手を小馬鹿にしたような技なので控えていた。 あまり生意気な人にはこの胴を打つとギャフンとなっていた。 さて見ての西村の思いは、こんな人が本物の八段だよな!と感心していた。 稽古をしたいとも思わなかった。 ただ見ているだけで満足だった。 あるとき、椎名先生の方から声が掛かり稽古をした。 随分研究はしていたので先生の手の内は判っている。 お互いに良いところが無く攻めあぐねていた。 最後に先生が面を打つと色を出した。 しめたと思い面を差し出した。 面を返して胴のつもりだった。 面を止めるのが一瞬遅れ面を打たれた。 完敗だった。 その後、ずーっと考えている[これが西村なのだ]、寝ても覚めても考えている。 あのとき、先生の色は見えたが間に合わなかった。 普通の相手ならば得意の面返し胴が入っていたはずだ。 今度はもっと得意の、竹刀の裏で面を受け、体を左に捌いて胴を取ろうと思った。 この捌き方は絶対なる自信があるのだ。 半年後くらいに先生と稽古をした。 お互いに入らない。 前回と同じ面を打つと色が見えた。 その時!小手を斬っていた。 先生は「参ったと言われた」 西村としては胴を打つつもりだったのだが、西村の【智】は小手を打っていた。 小手を打った西村自身がキョトンとして戸惑っていた! 後で聞いたところ警視庁の連中が目の敵にしているとか。
椎名先生の剣道には良い師匠がいるのだ。 ちょっと名前は忘れたが○○傳という先生だと聞いた。 名人にはその師に名人がいると言うことだ。 京都大会で見ていたら先に一本取っていた。 終了間際に椎名先生が不用意に面を打ち、小手を取られた。 後で「先生!どうしてあそこで面を打ったのですか?」と聞いた。 彼は笑いながら言った。 「せっかく京都まで来たのだから、面ぐらい一本打っておかないと思って打った」 彼にとっては剣道はこの様な感覚なのだ。 ちなみに先生の胴は手作りだと言っていた。 西村が博多の鞘師に百万円かけて作ってもらった鮫胴をみて、「胴に桜が舞い散っている!」と褒めてくれた。 あまり派手なので、めったに使っていない。 日本中誰も持っていない胴だが、自己顕示欲が強く出過ぎるので控えてしまっている。
合同稽古に行ったら、椎名先生の剣道を是非みてほしい。 私は余り人のことを尊敬しないのだが、彼の人柄と剣道は尊敬している。
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