永松教考先生 八段合格おめでとうございます。 過去に一次も受かったことがありなかなか強い七段でした。 頸椎を痛めており、八段まで体(首)が保つのかなと心配をしておりました。 研究熱心で西村に色々質問され教えを乞われました。 強い七段が教えを乞うという事は、見栄が邪魔してなかなか出来ない事です。 彼はそれが出来る性格、人柄の良さが有ります。 教わり上手なのです。 奥様も七段で大変な剣道一家です。
面打の指導はなかなか難しく上手く出来ませんでした。 長年身に付いた面打を変える事は大変です。 そこで・・・・・. 胴打ちの指導を致しました。 一般的に剣道家は胴を軽く考えています。 審査で胴の評価が低いと考えているからです。 面に打って来た所を返して胴を打つ・・・これでは評価の対象になりません。 この場合、攻め込んで面を打った方が0,5段上。 攻め込まれて胴を打つは、攻め込まれた時点で0,5段下との評価だからです。
お互いの機が熟し、打たんと思うチョッと先に、攻めを緩め相手を引き出して、きちっと胴を斬る。 この場合はこの胴を打った方が確実に1段以上うえと評価される。 相手の心を手の平に載せ、攻めを緩める、スッと面を見せる、スッと体を入れる、 体を沈める、打たれに入る。 相手の心が「シメタ!打てる!」と錯覚起こさせるところが、心の上位にて初めて出来る事だからです。 私の知る限りでは見事な胴を打てる八段も少ないです。
コツを書きます。 お互いが相気になって打たんと思う時、右足の膝をスッと右に開いて抜くのです。 姿勢はほとんど変わりませんが、重心が右前方やや下へ滑落を始めます。 これで体の予備動作は終了です。 相手の左拳が動くまで、頭は相手の打つべき目標として置いておくのです。
次に相手の左拳が打に動いた瞬間、重心の滑落を使って体を右に捌きます。 相手は居ない、消えた頭を打に来るのです。 『賀来先生が西村に言った「俺は先生に居ない所ばかり打たされてた!」』 その時自分の竹刀は体の沈みの反作用で腕の力を入れること無く、スッと上がります。 この時、竹刀の先は大きく回さないで、相手の竹刀をかわす程度に小さな円で止めます。 さらに、竹刀の先で打とうとせず、右手で鍔で斬る様に腰に落とします。 竹刀の先は鍔も元に引っ張られて、瞬速の動きを致します。 打の強さは左足の引きつけの鋭さに応じて強く打てます。 腕で打つ感触はほとんど有りません。 ビシット、相手が「う!」という様な打ができます。 このような武道的身体動作を駆使して、理合に溢れた胴を打てば、審査委員は「お!」とうなづきます。
審査員には両者の攻め合いから、相手の心を手の平に載せて行く順序、後は猫じゃらしの様にヒョイッと相手を手玉に取った様な胴打・・・この一連の状況はしっかりと把握しています。 こうなるとスピイードの優劣は余り関係ありません。 相手からすると、打ち取った!と思ったのに、足下をすくわれた様に打たれるのです。
原田先生が京都の立ち合いで、相手に範士の声がかかっていたそうです。 その相手を見事に胴に斬ったそうです。 相手に行くはずの範士号は原田先生に回って来て、相手は範士見送りになったそうです。 原田先生が「今朝、西村に打った胴が相手に決また!」と言われました。 この胴が範士の決め手でした。
さて、話は長くなりましたが・・・・。 永松先生はこの見事な胴が決まったのが合格の決め手だった様です。
さて、四月に永松先生の稽古を見て「化けたな!」と思いました。 見事な立ち姿でした。 何時も打気が肩か発散していたのが消えていたのです。 こうなると『観の目』が利いてきます。 後で、西村が永松先生の立ち姿を、これを褒めると、どこかが故障していた様で打気が消えた様です。 今日の様な心で相手に臨めば良いですよ!と西村は言っておいた。
この時、彼の剣道は一皮むけて化けた!と言えるでしょう。 この立ち姿ならば、先ほど書いた胴が打てます。 頭や肩が打ち気で前に出ているとこの胴は打てない。
七段にこの胴を教えたいのだが、教われる人はほとんどいない。 彼は千載一遇のチャンスを手に入れたのだ。 教わる上手が上達の基本なのだ。
それにしても61才で八段合格は素晴らしい! 改めて御目出度うございます。
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